むし歯は、むし歯菌をはじめとする細菌が出す酸により、歯が溶かされていく病気です。最初は歯の表面のエナメル質が溶け、次に象牙質が侵され、やがて細菌は歯の神経へ到達します。
初期段階であるエナメル質のむし歯は痛みは感じません。しかし、エナメル質から象牙質、象牙質から歯の神経、歯の中央部の神経から歯の根っこ部分の神経、とむし歯が進行するにつれ、痛みは強くなります。
症状が進行すると痛みが強くなるむし歯ですが、もっとも重度のむし歯(C4)では細菌によって歯の神経が死滅し、痛みを感じなくなります。痛みを感じなくなったむし歯は歯の根の先に滲出液の袋ができたり(歯根嚢胞)、顎の骨が溶け、骨髄炎などの重篤な症状をひき起こす場合も。
むし歯の進行を食い止め、歯を残すためには進行度に合わせて適切な治療を行うことが重要です。
今回は、「進行度別 むし歯の治療方法」をご紹介します。
目次
■CO エナメル質の脱灰
◎歯の表面のエナメル質がわずかに溶けた状態
しみや痛みなどの症状:感じない
CO(シーオー)は、歯の表面のエナメル質がわずかに溶けた状態のむし歯です。
エナメル質がわずかに溶けている状態のため、患者様ご自身ではむし歯に気づけないことが多いです。よく見ると、歯の表面が白っぽく変色しているケースもあります。
むし歯菌が出す酸や食べ物の酸によってエナメル質が溶けることを脱灰(だっかい)と呼びます。COは脱灰であり、初期むし歯に分類されます。
COのむし歯ではしみや痛みを感じることはありません。
≪治療方法≫
歯を削る治療は行いません。歯科医院で実施するフッ素塗布や患者様ご自身で行う毎日の歯みがきにより、歯の再石灰化をうながします。
■C1 エナメル質に穴が開く
◎歯の表面のエナメル質に穴が開いた状態
しみや痛みなどの症状:感じることがある
C1は、歯の表面のエナメル質に穴が開いた状態のむし歯です。
歯の噛み合わせ部分の溝に茶色のスジが入ったり、茶色いシミ・黒色の点ができるため、むし歯の存在を確認できます。ただし、歯と歯のあいだ(隣接面)など、外から見えにくいC1のむし歯はご自身では気づけないことも。
C1のむし歯はしみや痛みを感じないことが多いです。患者様やむし歯の深さによっては、冷たい物や風がふれたときに歯にしみを感じる場合があります。
≪治療方法≫
歯を削り、レジンの白い詰め物を充填する治療を行います。
むし歯の穴が小さいケースやむし歯ができた箇所によっては歯を削らず、フッ素塗布と歯みがきで様子を見る場合もあります。
エナメル質のむし歯のため、通常、C1の治療では麻酔は用いません(※)。
(※)歯科恐怖症の方など、患者様に応じて、
C1の治療で麻酔を用いるケースもあります。
■C2 象牙質に穴が開く
◎エナメル質の下にある象牙質に穴が開いた状態
しみや痛みなどの症状:感じる
C2は、エナメル質の下にある象牙質に穴が開いた状態のむし歯です。
歯に黒い穴が開くため、ほとんどの場合、患者様ご自身がむし歯の存在に気づきます。
C2になると冷たい物や風がふれたときに歯がしみたり、食べ物を噛んだときに歯に痛みを感じることがあります。
≪治療方法≫
麻酔をして歯を削り、銀歯やセラミックなどの詰め物を入れる治療を行います。
■C3 むし歯が歯の神経に到達
◎歯の中心にある歯髄が細菌に侵された状態
しみや痛みなどの症状:強く感じる
C3は、歯の神経が集まる歯髄(しずい)がむし歯菌をはじめとする細菌に侵された状態のむし歯です。
歯に大きな穴が開くため、はっきりとむし歯を認識できます。ただし、歯の表面の穴は小さく、象牙質の中でむし歯が広がっているケースもあります。
C3は重度のむし歯です。C3になると冷たい物だけではなく、熱い物がふれたときにも歯にしみや痛みを感じるようになります。食べ物を噛んだとき、歯に強い痛みを感じることも。歯の神経が細菌に侵されているため、夜も眠れないほど、歯が強く痛むケースも珍しくありません。
≪治療方法≫
麻酔をして歯を削り、歯の神経を抜く抜髄(ばつずい)を行います。
抜髄後は、歯の根っこの中(根管)の細菌を除去するために根管治療を行います。根管治療が終わった後は銀歯やセラミックの被せ物をして歯を補います。
C3の治療では歯を大きく削るため、歯の強度が不足するおそれも出てきます。歯の強度不足が考えられる場合は歯の中にコアと呼ばれる土台を入れ、歯を補強してから被せ物をすることもあります。
■C4 歯の神経が死滅し、歯冠がボロボロに崩れ落ちる
◎痛みを感じなくなり、歯の形が原型を留めていない状態
しみや痛みなどの症状:感じなくなる
C4は、細菌によって歯の神経が死滅し、歯冠(しかん:歯ぐきから上の歯の部分)がボロボロに崩れ落ちた状態のむし歯です。
歯冠が崩れ落ちるため、歯の形が原型を留めていない状態です。歯ぐきから上の歯の部分がごっそりと無くなり、一見すると歯が抜けているように見えることもあります。
C4は末期のむし歯です。C4になると歯の神経が死滅し、痛みを感じなくなります。痛みを感じないため、患者様によっては「むし歯が治った」と勘違いしてしまう場合も。
もちろん、痛みがなくなる=むし歯が治った、ではありません。むし歯は放置して治ることはほぼないです。
C4のむし歯を放置すると歯の根の先に細菌が侵入し、根尖性歯周炎や歯根嚢胞をひき起こすことがあります。根の先の病変がさらに進んで細菌が顎の骨の中に入り込み、顎骨骨髄炎を発症して顎の骨が溶けるケースも。顎骨骨髄炎になると多くの場合、顎に強烈な痛みを感じます。
≪治療方法≫
C4のむし歯の多くは歯を残すことが難しいです。歯の根っこ部分(歯根)を抜いた後、患者様のご同意を得た上でインプラント・ブリッジ・入れ歯による補綴治療を進めていきます。
C4では多くの場合、抜歯・補綴治療になりますが、状態によっては歯を残せるケースもあります。歯を残せそうなときは根管治療を行い根管内部を清掃した後、差し歯で歯を補います。
【むし歯は早期発見・早期治療が重要です】
むし歯は早期発見・早期治療が重要です。
初期段階でむし歯を発見できれば、早期に治療を行えます。早期治療によって歯へのダメージを食い止めやすくなり、歯を残す可能性を高められます。
むし歯が重度に進行した場合は、歯の神経を抜く抜髄や根管治療を行わなければなりません。神経を抜いた歯は栄養が供給されなくなります。栄養が届かず歯がもろくなり、歯の寿命が縮まります。
大切な歯を守るためにも、歯に違和感や痛みがある場合はできるだけ早めに歯科医院で診察を受けましょう。
歯に違和感や痛みがない方も、定期的に歯科医院で検診を受けることでむし歯をはじめとするお口の病気(歯周病など)や異常の早期発見・早期治療につながります。